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生物材料移転プロジェクト


これはクリエイティブ・コモンズの一部門であるサイエンス・コモンズが取り組んでいる生物材料移転プロジェクト(MTA)の紹介です。

幹細胞、実験用マウス、プラスミド、細胞組織といった生物材料やその他の生きた研究材料は、現代の生命科学の研究において必須の研究材料となっています。

それらは、論文やデータを生み出す実験システムの基礎であり、私たちの体の働きや、医薬品に対する影響の可能性に対する理解を助けてくれます。

科学者は一連の実験手順に従ってこれらの生物材料を利用することで、再現性のある実験を計画、実施することができるようになります。

通常研究材料と実験手順は、実験結果に関する論文のなかで示されます。

そして適切な期間、大半の研究材料は高密度冷凍庫のような設備で保管されます。

従って通常、研究材料はどこからか入手可能となります。

それは冷凍庫や研究室にあり、理屈の上では論文の執筆者にメールで連絡をとることで、私たちは同じ研究材料のコピーを入手し論文で述べられている実験の追試をおこなったり、興味を引く実験データを再実験により確認することができます。

このアイディアは、「巨人の肩の上に立つ」という昔からある科学分野における考え方から来ています。

この考え方は、科学者がそれぞれの研究成果を共有することで、過去の研究成果に基づいて、新しい研究を積み上げていくことができる、ということを示しています。

しかし現実はこれとはかなり異なります。

現実には、研究材料へのアクセスは会員制のクラブへの参加と同じくらい難しいものとなっています。

もしあなたの名前がリストに載っていないのならば、つまりこれは有名な科学者や、有名な研究機関に属する科学者ではない多くの場合、あなたが研究のためや、論文で読んだ研究の追試をおこなうために必要とする、研究材料へのアクセスが拒絶されるということになります。

さて、もしあなたが生命科学者でないのならこの状況を理解するのは少し難しい事かも知れません。

このような場合、この状況を理解する1つの方法は料理の例を通じてでしょう。

この例では、料理本は実験計画書のようなものです。

そして幹細胞はフライパンのようなものです。

そして料理をフライパンで作る度に、大きな鉄の塊からフライパンを毎回作り直さなければならない状況を想像してみてください。

これはいろいろな意味で、多くの科学者が論文で読んだ研究材料にアクセスを試みたときに直面する状況と似ています。

特にこの状況は比較的有名ではない研究機関や、新興国の科学者の場合に顕著です。

サイエンス・コモンズは、この状況が問題であると認識した最初の組織ではありません。

少なくとも米国国立衛生研究所(NIH)の実験ツールに関するワーキンググループが報告書を出した1998年には、この問題は米国国立衛生研究所やその他の世界中のいろいろな組織で、優先度の高い問題として認識されていました。

NIH基金の支援を受けている研究者が相互に研究材料を提供するための基本的なガイドラインと題された報告書は、私たちは迅速に研究材料をやりとりする必要があると述べています。

一方、資金提供者や大学の研究機関や研究者が(研究材料のやりとりのために)取り得る選択の幅は非常に狭いのが実情です。

そのレポートで述べられているもうひとつのポイントが、1995年に初版が作られたUniform Biological Materials Transfer Agreement (UBMTA)と呼ばれる契約書です。

これは生物材料移転に絡む法律面の問題を解決しようとする試みでした。

この契約は非常に成功を納め、世界中の250以上の大学が、この1つの標準的な契約を

研究目的で使う生物材料を相互に授受するために利用することに合意しました。

そしてこの動きは法律面に留まらず、実験データと研究材料がこのように入手可能であることをプロモーションする、学会誌系の出版社による動きにも発展しました。

これは、論文の著者は論文に記載された研究の追試ができるようにデータと研究材料を提供できるようにすべきである、とする多くの機関や学術系出版社の1つであるNature Publishing Group(NPG)のデータや研究材料の移転に関する方針を示したホームページです。

残念なことに、NIHの作業部会のレポートも、UBMTAや学術系出版社の生物材料移転に関する動きも、研究材料を移転させる文化を醸成するには至りませんでした。

これは約5年前に米国医師会雑誌(American Medical Association)に載されたエリック・キャンベルの記事です。

ここで述べられているのは、データの流通と研究材料の流通が科学界の制約のために、著しく制限を受けているということです。

科学者は、データや研究材料を共有することで、同僚のポスドクが就職できなくなるのではないかとか、彼らの研究がスクープされるのではないかとか、研究補助金が取れなくなるのではないかと心配をしています。

広く研究材料を共有する姿勢をとる研究者を報償するインセンティブや仕組みも存在しません。

そして極端な例ですが、取り組んでいる研究が本当に画期的な内容である場合、研究者は他の研究者に提供する研究材料の準備に追われ、研究を更に先に進めることができなくなるのではないかと心配しています。

このような状況を変えようとする動きはいろいろありますが、これが私達のいる世界の現実です。

サイエンス・コモンズは、このような状況を変化させるためのアイディアの拠り所としてウェブを捉えています。

なぜなら製造と流通の分野でウェブは、ネットワーク以前の旧来のシステムと比べて遥かに効率のよい、全く新しいシステムをどのようにすれば構築できるか、という問いに対する実例を示しているからです。

いま私たちは、ネットワークでデジタル化されていない品物を送ることができる、ということを知っています。

例えば、本をウェブ上のショッピングカートに入れてワンクリックするだけで、クレジットカードで注文し、送付してもらうことができます。

そしてこのような仕掛けは、いろいろな異なるモノ同士の継ぎ目のない一貫した組み合わせで実現されています。

それは単に契約、あるいは学術誌といった個々のものだけではなく、注文を出せばそれが適切に処理され品物が送付される、という仕掛け全体を私たちが理解できるということです。

そしてこの方法は、生きているものにも適用できます。

オンラインで植物を注文する方法や、育てた植物を電子取引システムで受発注する温室プラントなどが採用している方法が参考になるでしょう。

挑戦すべき課題は、いかに生物材料のためのワンクリックの取引システムを構築するか、ということになります。

そしてこれは4年前にサイエンス・コモンズがMTAプロジェクトに着手したときに、自らに課した課題でもあります。

私たちの目標は、既にウェッブ上で生物材料の提供をおこなっている大学や研究者のネットワークを相互につなぎ、ワンクリックのシステムを実現することでした。

実現に当たって、著作権の為に作られたクリエイティブ・コモンズの契約の方法論を踏襲しています。

私たちは、名前、URL、住所、提供する生物材料の内容、その生物材料を入手するためのURLを入力し、ボタンを押すだけで提供する生物材料のオファーを生成する簡単なウェブベースのインターフェースを作りました。

私たちは、実績があり成功しているUBMTAとSLAという2つの契約と似た契約を新たに作り上げる代わりに、その2つの契約を私たちのプロジェクトに取り入れました。

そしてここでもクリエイティブ・コモンズのライセンスの仕組みを踏襲して、組み合わせが可能なモジュール式の生物材料移転契約をデザインし、アイコンによって主な責任、権利と義務の概要を示すと共に、利用者が法律家でなくても容易に契約の概要を理解できるようにしました。

オファーを追加するときには、オファーの内容を決める作業をウィザードがサポートし、UBMTA、SLA、サイエンス・コモンズの契約、あるいは独自の契約から希望する契約を選択できるように追加作業をガイドします。

あなたはオファーを非営利機関に対して提供するかどうか、あるいは営利目的の機関に対して提供するかどうかを決めることができます。

そしてクリエイティブ・コモンズのライセンスと同じように、いくつかのシンプルな契約条件の組み合わせから利用者が希望する契約条件を選択することが可能です。

オファーを提供したり、利用する技術移転事務所や企業にとって、こういった種類の選択肢を用意することは重要です。

なぜなら多くの場合、例えば提供される生物材料はハンチントン病以外の研究目的でのみ利用可能とか、ハンチントン病の研究目的でのみ利用可能、といった制約条件が付けられるからです。

加えて生物材料の所有者に、どのような種類の利用条件で生物材料を提供しているのかを理解する機会を提供ことは重要です。

ある所有者は、提供した幹細胞が多量に生産されることに許可を与えることを好まないかも知れません、あるいは実験が終了した時点で提供した生物材料の返却を希望するかも知れません。

このような例は、いずれも既存の標準的な契約に人々が修正を加える場合の非常によくある事例であり、修正によって契約が標準のものではなくなり、ワンクリックシステムの確立を阻害します。

私たちが開発したのは、ほかの技術転移システムやバイオバンクの既存の取引システムとの統合を目的としてデザインされた非常に単純なウェブシステムです。

クリエイティブ・コモンズのシステムと同じように、それは簡単に他のソフトウェアやウェブサイトとの統合ができ、科学者が理解できる契約書、法律家が理解できる契約書、統合システムや検索エンジン、あるいはソフトウェアシステムが利用可能な機械が理解できる契約書の3層から成る契約を生成するシステムです。

科学者が理解可能な契約書の部分では、受け取った生物材料の利用に当たって発生する権利と義務の概要を明確に示しています。

サイエンス・コモンズの MTAに合意した全ての研究者は、入手した生物材料を自由に利用することができ、適切な管理のもとで他の研究者に同じ生物材料を利用させる権利をもち、入手した生物材料を利用した研究成果を発表する権利を与えられています。

しかし個々ケースでは、利用にあたっての制限事項がある場合があります。

この契約書の例では、入手した生物材料を利用可能な範囲を限定することで制約を加えています。

臨床目的での利用は認められていません、また製品やサービスの販売と結びついた目的での利用は認められていません。

さらに入手した生物材料を第3者に譲渡あるいは配布することも認められていません。

このように、この契約は研究を目的とした生物材料の移転を非常に容易にすると同時に、生物材料の所有者に十分な権利を担保し、提供した生物材料が誤った利用者に渡ることや、間違った目的に利用されることを防ぐことができます。


機械が理解できる契約の部分は、提供される研究材料のデジタル表現にどのような権利が設定されているかをソフトウェア、検索エンジンや他のシステムに対して明確に示します。

この契約によって、論文の記事から直接実験材料の情報にリンクを張ることが可能となり、記事中のリンクをクリックすることで直接研究材料を注文することや、より先進的な生命情報工学とデータを統合したシステムを構築して、生命科学の最先端に関する複雑な質問を投げかけることで研究材料の注文をおこなうといったことができます。

私たちはこの成果を、カフマン財団のプロジェクトの1つであるアイブリッジ・ネットワークに組み込みました。

このプロジェクトは、35以上の大学の技術移転事務所が保有する特許化されているものとされていないもの両者を合わせた研究成果と生物材料のリストを提供しています。

オンラインショッピングとの比較で見たときに、ウェブページの見た目が単純に見えるにも関わらず、実際にワンクリックで幹細胞やその他の生物材料を注文できるシステムとして仕上げるまでには数年を要しました。


このプロジェクトの成功の秘訣は、オンラインショッピングと同じように利用者が研究材料を注文するために必要なのことがシステムへの登録と、契約条項に対して「同意」ボタンを押すことだけである、ということです。

このプロジェクトの成果の最初の適用先であるハンチントン病関連の組織では、サイエンス・コモンズのMTAライセンス下に全ての生物学データをワンクリックで提供するシステムを構築したことを、ここに紹介します。

このシステムは、最も歴史があり、最も評価されている細胞やその他の生物材料のデータベースの1つであるコーリエル医学研究所(Coriell Institute for Medical Research)のデータベースに組込まれています。

最後になりますが、私たちはこの分野の動向に注意をしていただきたい、と単に述べるに留めたいと思います。この分野では多くの革新的なプロジェクトや取り組みが生物材料を中心に行われており、私たちのプロジェクトはそのうちの1つに過ぎません。

今後いろいろな他のプロジェクト、特に先進的な技術をもつプロジェクトと私たちのシステムの統合を更に進めていきたいと考えています。

そして、更に多くのプロジェクトや、より大きなプロジェクトにこの契約の考え方が適用され、開かれた科学のための開けれた生物材料移転方法がウェブ上に確立されていくことを、またご報告できる日を楽しみにしています。

ありがとうございます。